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【時計を巡る群像劇】シトロエンDSが思い出させた淡い恋心と、今、腕にあるブシュロン

対向車線をすれ違った瞬間、白いワンピースが風に揺れたような気がした。間違いない。そう確信し、サイドミラー越しに見たときには既に視界から消えていた。

白いシトロエンDS。

今ではすっかり街中で見ることはなくなったが、ユニークなフォルムを見間違えるはずはない。路肩に車を止め、目を閉じ、その残像を追っていると、不意につんとした青さが込み上げてきた。それは決して開けた窓から香ってくる、新緑の息吹だけではなかった。

子供の頃、近所の日曜絵画教室に通っていた。別に英才教育でもなんでもなく、わんぱく盛りの子供たちを相手に、美大に通う女子大生が教えるお稽古みたいなものだ。その家のガレージに置かれていたのが、白いシトロエンDSだったのだ。

一緒に通っていた友達は皆、庭に咲いた花や風景を写生したが、僕だけは飽きずにDSを何枚も描いた。まるで地球防衛軍の車のような見た目に魅かれたのだけど、そこにはどこか先生の気を引きたいという、ませた恋心もあったに違いない。

いつしか白いDSとマドンナのような先生のイメージは重なり、少年時代の淡い夢のような思い出になった。いや、それは今もひっそりと息づいているのかもしれない。

愛用する時計もそんな影響を受けている。

腕元のブシュロン「リフレ ウォッチ スティール ミディアム」は1947年に誕生し、現在も継続するブシュロンのアイコンウォッチだ。

カボションサファイアのリュウズを備えたシンプルな角形ケースにゴドロン装飾をあしらい、クラシックと建築やアートといった’50年代のモダニティが共存する。

もともとは男性向けの美しさを追求した時計として登場したが、やがて女性たちからも熱い視線が注がれるようになったのである。

そんな優美な流線形と、ジェンダーレスな魅力に惹かれるのかもしれない。それは同時代に誕生したシトロエンDSにも重なるのだ。かつて哲学者ロマン・バルトは、“DS”の発音がフランス語で女神を連想させることから、天空から降臨した女神にたとえた。いくつであろうとも男は女神に憧れるのだろう。

「どうしたの、あなた。大丈夫?」その声に束の間のまどろみから覚めた。助手席にも「リフレ」が見えた。

「いや、車に見惚れて」と答え、僕は再び走り始めた。


SSケース、縦35.5×横21mm、クオーツ。42万9000円/ブシュロン 0120-23-0441
BOUCHERON
ブシュロン/リフレ ウォッチ スティール ミディアム
創業家3代目のジェラール・ブシュロンがメンズウォッチとして1947年に発表。’50年代のモダニズムを先取りしたシャープな角形ケースに、ブランドを象徴するゴドロンのモチーフを配して演出する豊かな光の表現は、まさにジュエラーならでは。

さらに機能美を追求し、画期的なインビジブル クラスプ システムを採用。通常のバックルの代わりにケースの両端でストラップをスライドし、着用や交換が簡単にできる。昨今人気のインターチェンジャブル機構の先駆だ。

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